うちの中庭から塀を隔てた隣の中庭『赤いティーシャツのムッシュー、ちょっと家具と空』『カンパーニュでは木が落ちる!』 のつづきです。
さて。
うちの家の鍵を持っているという白髪・白髭のムッシュー・マーセルの奥方にも会い、懇意になってきたところで、そのへんを歩く姿をぱたりと見せなくなったマーセル。
どうしたのかなー?とは思っていたが、うちもまだ引っ越してきたばかりでまだばたばたしています。すると、うちのすぐ右隣の家がバカンスの旅行から帰ってきたよう。わたしたちは好きな店のマカロンを持って、さっそくあいさつにでかけた。
すると、次の日。ピンポ〜ン♪と夕方、門のチャイムが鳴った。もしや?!と思ってでてみると、お隣の奥さんが立っていた。
「マカロンどうもありがとう。とってもおいしかったわ。わたしはナンシーっていうの。ところで今週の金曜の夜は家にいる?」
お隣は子供がふたりいる。土曜は子供の学校がない日で夜遅くなっても平気なので、金曜の夜軽くアペリティフを飲みに来ないか、との誘いだった。
わたしたちはいそいそと金曜の夜お隣へでかけた。隣の家は、うちのようにふる〜いタイプの家ではなく、モダンな造りで、外壁はうすいピンクで塗られている。
奥さんのナンシーは43歳、ブロンドの髪に小粋なブルーの細い金属縁のめがねをかけている。ご主人は今年52歳になり、フィリップという。白髪がちらほら混じったダンディーな感じはなんとあの俳優、ジョージ・クルーニーにも似ているではないか!彼らには、アーノという11歳の男の子、そしてリナという5歳の女の子がいる。
ご主人はダンディズムだし、リナは5歳ながらも脚がスッと長く、子供ながらにスタイルのよさに圧倒されながら、彼らは飼っている4匹の猫の紹介もしてくれた。そのなかには、うちの庭ですでに見かけていた
ロシアンブルーの大柄な猫、そして
3本脚の茶色い縞模様の猫の姿も。
「あと2匹はまだ仔猫だから、塀をジャンプしていけないんだけど、そのうちそっちの庭にきっといけるようになるわ」
とナンシーはけたけた笑った。わたしはかわいい2匹の仔猫を前に、うれしいんだか、はたまたリラさんの怖がりっぷりを考えるとう〜む、とうなりたくなるような複雑な気持ちになった。
みなでキッチンの丸いテーブルをはさんで、ロゼ・ワインと簡単な軽食をいただいた。わたしとセバは、うちに倒れてきた木の話をしなければ、あの木はこの人たちの家のものだ、とマーセルから聞いていたし、しかしせっかく朗らかなムードでみなワインを手にしているところで「あんたんとこの木が倒れてきたんだけどね・・・」と言い出すのも忍びない。
隣とそのまた隣の家の庭 真ん中にある小途で区切られているらしいそうこうしているうちに、話はマーセル家の話題へと。
「あそこの家は奥さんがとってもやさしくてね、旦那さんにもずいぶんといろいろ助けてもらったわ」とナンシーは言う。聞いてみると、彼らは4年前、ベルサイユからここに引っ越してきたそうだ。ベルサイユというと、わたしたちがこの間住んでいたところと同じ地区。都市の小さなアパートから突然ノルマンディーの一軒家に引っ越してきて右も左もわからなかった、というのは今のわたしたちの状況だ。なるほど・・・と親しみをおぼえてきたところ、
「マーセルはいま入院してるのよ。彼は糖尿病だから、年にいちど2週間ぐらい入院して検査してるの」
そうだったのか・・・。いまは検査のため入院しているからこのところ姿を見かけなかったのか。
「あの人はほんとによく飲むからねぇ」とダンディーなご主人・フィリップもしきりに頷く。
マーセルの話がでてきたので、ここがチャンス!とばかりにわたしとセバは目くばせをして、うちに倒れてきた木の話を切り出した!
するとあっさり、
「倒れた木は、うちの木じゃないのよ」とナンシーは言う。
ええ?じゃあどこの木ですか!
「あれはね、うちとあたなのとこの家の木の間にある市道の木。今はその市道は門が閉められていて誰も通らないけど、川まで通じていて行けるようになってるの」
ということだった。倒れてきた木は大きいし、さらにわたしたちの家の柳の木をへし折ったので、庭には枝や幹やら葉っぱやらの残骸がまだうず高い。これを切って処理するには人手と、大きな電動ノコギリなどが必要だ。
市道ということになると、こんどは市役所に行かなくてはならない。
***
うちは、いちおう街の中心街にあり、駅までは歩いて10分、市役所も徒歩5分という近さである。が、ちょっとした買い物に行くとなると、坂があったりするので、徒歩や自転車だけというのもきつそうだ。わたしは50CCのスクーターを注文していた。
フランスでは、フランスに引っ越してきて一年以内に日本の運転免許証を届けでればフランスの免許証と交換してもらえる、と規則があるのだが(その代わり日本の免許証はとられるらしい)、わたしがフランスに来た当初はそのことを知らず、さらにセバさんの仕事でフランスに来てからわりとすぐにオランダにいったん引っ越してしまったりしていたためそれを完璧に逃がしてしまい、わたしはここで運転免許証がない。もしここで車を運転するためには、教習所に一から通って免許を取りなおさなくてはならないわけだ。
今までは都市に住んでいたため、車もとくに運転する必要はなかったのだが、この田舎にきてしまっては困る。と思っていたところ、なんとフランスでは50CCまでのバイクは免許なしで運転することができるらしいと耳にはさんだ。
そこでわたしは、とりあえずスクーターを手に入れることにしたのだった。
ナンシーの家を訪問してから翌々週、わたしが家の前で、ゴミ収集の箱を整理していると、道路からププー!とクラクションの音が聞こえた。
振り返ると、マーセルとその奥方が車でちょうど家に帰るところだった。おお、やっと退院して戻ってきたのかな?わたしは手を挙げて挨拶した。
そのすこしあと、こんどはでかいトラックがうちの前に停まった。どうやら注文していたバイクがやっと届いたらしい。
若い運転手は、電動クレーンを使ってなんとかトラックの荷台からバイクの入った大きな箱を降ろすことには成功したが、こんどはそれをうちの門のなかに運ぶ段になると根をあげた。これはひとりで運ぶには大きすぎる。わたしも手伝おうとしたが、女ひとりの力が加わっただけでは無理なよう。重い箱はびくともしない。
「誰か運ぶの手伝ってくれる人いませんかね?」と困り果てた運転手はぼやき、どうしたものかと思ったところ、あちらからちょうどよく誰かが歩いてくるのが見えた。助かった。
「マーセル!」わたしは叫んだ。
長い・・・また次回に続きますね;_;