2009年11月12日

ふたつのポストのあいだ

121109_01.jpg


うちの近くには、シャトーと呼ばれている大きな家がある。
うちの通りは、両側にメゾン・ブルジョワーズと呼ばれるカテゴリの豪華な一軒家が立ち並んでいて、それはそれはきれいである。そのなかでも大きい家はフランスではシャトー(城の意味)と呼ばれる。
その大きな門から小高い丘につづく家までは背の高い木がぽつぽつと並び、外からは家が見えない。
持ち主は銀行をいくつか所有するイタリア人の資産家。ミラノに本拠地を構えているご主人は、世界の各地に家を持っているらしいのだが、ふだんはここにはいず、冬のあいだの6ヶ月だけここに奥方とともに滞在するということ。不在のときも庭師がときどき来て、庭の手入れをしている。
以前、家のうしろにある車庫とプールをマーセルに見せてもらったことがある。それはずいぶん前、まだマーセルが定年する前に、土日を使って彼の義息子とともにつくったらしい。
名前ではなく“シャトー”と呼ばれているだけあって、その家はなんと600平方メートル(≒182坪)の広さだという。ふたりきりでどうやって住んでいるのかよくわからない!
ご主人がその家を買ったとき、きれいに大理石などでつくられたキッチンとバスルームを見て、
「う〜ん。イタリア風じゃないから全部壊す」
と言って、すべて撤去、新しく自分好みにつくりなおしたぐらいだそうだ。
ちなみにわたしたちは引っ越してきて近所周りはすませたが、この家だけは恐れ多くてきちんとあいさつはしていない。

秋のある朝、会社へ行こうとしているセバさんを見送る際に、セバさんに急ぎで送りたいと頼まれていた郵便物を2通、ポストに出しにいったわたし。郵便局のポストはシャトーと道を挟んだ隣の家の外壁に取りつけてある。
「うちの車庫のドアを自動にしたい。古いものだけどできるのかな」
と前日の晩話していたセバさん。それを思いだしながら、わたしはポストまで続くシャトーの前の道路を歩いていた。・・・シャトーの門は、リモコンで自動で開くようになっている。そして敷地のなかを車でそのまま走り、家のそばに立っている車庫までそのまま車で行けるようになっているのだ。さらに広大な庭の各木にはライトが配してあり、それもリモコンでひとつボタンを押せばパーっと庭が明るく照らされる。その仕組みをつくったのもマーセルで、家の主が不在のときも、夜なにか不審な音がしたときは、彼が家からリモコンでその庭を照らす。その家にはそれはまた高価な絵が飾ってあるから、とマーセルが言っていたな。
カタン・・・そんなことを考えながらわたしは手紙をポストに投函した。
・・・と、あれ?待った!

と、気づいたときはすでに時遅し、わたしは自動の門のことを考えていて、なんと、出さねばならないうちの封筒をシャトーの郵便受けに投函してしまったのだった。ポストはあっち!

手を郵便受けの口にいれてみてもとれない(あたりまえだ)。うわどうしよう、ポストまちがえちゃったよ、と急いで家の前にまだ停まっているセバさんの車に戻る。そのことを告げると彼は、えっ?!と驚き、困る困ると騒ぎはじめた。
「待って。たぶんマーセルが鍵を持ってるから、あとで開けてもらうから」
不安顔なセバさんをなんとかなだめ、急ぎの郵便物をシャトーの郵便受けに入れてしまったまま、会社へ旅立ったセバさん。
わたしも不安な思いのまま、しかしまだ朝はやかったし、ひとまず家に戻った。

午前11時ごろ、家の玄関がピンポ〜ン♪と鳴った。きたきた。
扉を開けてでていくと、そこには案の定マーセルが。この時間にきたときは、まずはコーヒーである。
わたしは彼をうちに招き入れてコーヒーをだし、今朝おかしてしまった愚かな話を彼に告げた。
「じゃあ今からいこう」 急いでマーセルのあとを追う。シャトーのほうにまっすぐ歩いていく彼に、「シャトーの鍵をもってこなくていいの?」と聞くと彼はにやりと笑った。
シャトーに着くと、彼は迷わず門に取りつけてある呼び鈴を鳴らした。
「え、誰かいるの?」と聞くと、
「この家の主人ね。昨日戻ってきたんだ」
わたしは青くなった。よりによって住人が帰ってきているときにまちがえて出してしまったとは・・・。


111109_03.jpg 111109_04.jpg
左が郵便局のポスト、右がシャトーの郵便受け

アロー?と誰かがインターフォンに出た。マーセルはあいさつをしたあと、いや隣人がきみのとこの郵便受けにまちがえて手紙を投函してしまってね・・・・すると家の主人はアーボン?と言って笑った。話すマーセルも、横目でちらちらわたしを見ながらその目は完全に笑っている。
わたしは穴があったら入りたくなった。
そうこうしていると、後ろからププー!とクラクションの音がした。振り向くとでかい黒い四駆の車がこちらに近づいてくる!この家のイタリア人マダムであった。黒くて軽そうな毛皮のコートを着込んだマダムはマーセルとあいさつを交わしたあと、「あー手紙ね。入ってたわ。ほら」と強いイタリアン・アクセントのフランス語で彼女は話し、これまた高そ〜な黒い革のバックのなかからわたしの失われたふたつの封筒を取りだし、手渡してくれた。

リモコンを使って扉をひらき、なかに車とともに消えていくマダムを見送りながらマーセルは、
「戻ってきていてよかったよ。僕はシャトーの郵便受けの鍵は持ってないからね」
と言った。ではわたしは逆にラッキーだったのか。しかし、
「まちがえたこと誰にもいわれないでね、恥ずかしいから」とマーセルに念を押しておく。
「今日はペピタ(マーセルの奥さん)が休みで家にいるから、ちょっとうちに寄っていく?」と彼がいうので、わたしはそのまま家を通り過ぎてマーセル家へ。
家に着くなり彼は、ペピタに今あったことを報告した。
「郵便局のポストとまちがえてシャトーの郵便受けに封筒をだしちゃったんだよ」 ありえない、という身振りを交えて話すマーセル。
ペピタはええ?と一瞬目を丸くしたあと笑い、でもあるある。ぼーっとして歩いているときなんかね。とすぐ真顔になりわたしの肩をもってくれた。ううやさしい。その後、ペピタと世間話をしており、あそこの子供はとっても頭がよくて飛び級して・・・と話しているとマーセルが「ほんとに頭がよくてね。きみみたいに」と皮肉的にポストをまちがえたことをからかわれ・・・
セバさんはその日会社で自分の奥さんがしたアホなことを笑いの種にし、わたしはその後、時あるごとに
「ふたつのポストのあいだの道ね」
なんていうふうに、まだマーセルに突っこまれている次第である。
みなさんも、手紙を投函するときはくれぐれもまちがわないよう気をつけましょうね。


posted by ナオカ at 17:40| Comment(8) | TrackBack(0) | フランス田舎生活あれこれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白い小説を読んでいるかの様に、イメージがわいてきました。カワイイ間違いですよね(笑。それにしても、オーナーの方が帰って来てくれていて良かったですね。
Posted by みーあ。 at 2009年11月13日 06:12
今回のエピソード、
ああぁーナオカさんやっちゃた。
と思いましたが、私にもあり得る話。
読んでいてドキドキしました。
そして親近感を覚えました(笑)
でも無事に手元に戻って良かったですね。
これからイタリア人マダムとのエピソードがまたあるかしら?
と期待してます。
Posted by 大福餅 at 2009年11月15日 21:51
でも、そもそもそのポスト自体が又小さく地味に存在するので^^きっと私でも同じ間違いをしていたと思います。
そしてマーセルさん、話すの早すぎです!!(奥様に)
シャトーと呼ばれるような家(いや城かな…やっぱり)に住まれている方が本当にいるのだな…とこちらに住んでからそう実感しています。
因みにうちはあのV宮殿の直ぐ目の前なのですが、この辺にも!そういう素晴らしい豪邸をお持ちの方がいるので、驚きを隠せません。
あのシャトー、V宮殿の中にも住んでいる人がいますから^^サルコジ大統領もあの中にあるレジデンシャルに夜帰ってくることが多いみたいです。
うちは…
庶民的スペースのアパルトマンですが(笑)
Posted by bio at 2009年11月16日 07:03
▽みーあ。さん
ぼーっと考えごとをしていてふと魔がさしてしまったことですが、家主が帰ってきていなかったらそれこそ大変でした。ふーセーフ。-_-;
かわいい間違いといってくれてありがとう;
いまでもまだこのことは引き合いに出されてます;
Posted by ▽みーあ。さん at 2009年11月17日 16:30
▽大福餅さん
いろいろな国、それぞれ郵便ポストの形も色もちがいますよね。旅行先で、青や黄色の国があるのをはじめて知ったときには目から鱗が落ちる思いでした。
いいわけするわけではないですが、日本の紅いポストだったらまちがえない!とか思ってしまいました・・・それ、やっぱりいいわけかな?
Posted by ▽大福餅さん at 2009年11月17日 16:34
▽bioさん
パリや78の地区にある郵便ポストは、ちゃんと地面から立っていて、口がふたつあって大きいものですよね。でもここはやはり田舎、ちっこいのが壁に取り付けてあって、はじめからポストなのか誰かの私有の郵便受けなのかまちがえそうでした。笑 A4の封筒を入れるのに入るかどうかという口の大きさなんですよ。
ヴェルサイユ宮殿の目の前のアパルトマンなんですか?夜は宮殿の明かりでとてもきれいなのが窓からみえるんだろうな。
ヴェルサイユ宮殿の敷地のなかは、昔は宮殿に仕えていたひとたちが住んでいたようですね?セバさんの知り合いに、宮殿のガーディアンの父を持つ人がいて、確かあそこに住んでいると言っていた気がします。
その人がお父さまに頼んでくれて、一度知人用の招待の紙を持って、並ばずに横の扉から入れてもらって見学しちゃったことがあります。ふつうはかなり並ぶから、これはかなりラッキーとセバさんとほくほくしてました。
サルコジさんも宮殿に夜帰ってくるとは・・・こんどぜひ張ってみてください、bioさん。
Posted by ▽bioさん at 2009年11月17日 16:43
こんにちわ。
はじめまして。

先日はご訪問くださいまして、ありがとうございました^^
フランスに住んでらっしゃるんですね!
シャトーが近くにあるなんて、素敵です。
フランスのお宅という雰囲気たっぷりなお家もうらやましい!!
あ〜すぐにでも飛行機に乗りたくなってしました〜。
またお邪魔しますね
Posted by Aki at 2009年11月21日 12:41
▽Akiさん
こんにちは、ご訪問ありがとうございます。
Akiさんはほんとにご旅行好きなんですね。わたしはここのとこすっかり足が遠のくばかりですが、旅先で素敵な毛糸をみつけられるのもいいなーと思ってました。昔、ヨーロッパを冬に旅行したときは、きまってなにか編みたくなって針から衝動買いしたりしてました。笑
わたしもまたお邪魔させてくださいね^^
Posted by ▽Akiさん at 2009年11月25日 05:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。