2005年12月13日

暖炉と旅の終わり

これは、前回の「過去と現在の恋」の続きです。

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再びアムステルダム空港を訪れたのは年末のことだった。

空港に着いて、ダニーと出会ったバーをのぞく。また、彼がいるかもしれないという期待をすこし抱いた。彼はいなかった。
以前、ダニーの友人が書いてくれた彼の電話番号をわたしは大事にとっていた。

またホテルを予約し、ホテルに着いたらすぐにインターネットに接続する。
ダニーからたくさんの小さいメッセージが入っていた。
電話番号をとりだし、電話する。もう待ちきれない。
電話した。
出た。
子供の声がした。

ダニーはとてもびっくりしたみたい。How are you?と英語で聞いた。家にいたんだ。奥さんが近くにいるんだ。わたしは急いで切った。
そのあとは落ちこんだ。どうして電話したんだろう?オランダ語ではなく彼が英語を話したことで、奥さんにおかしく思われてしまったかもしれない。
その夜、ダニーからメッセージが入った。
「まずかった。誰だかしつこく聞かれた。電話はまずいから、俺の電話番号は捨てて」

ただ会いたいと言いたかった。
ただ、彼の気持ちを聞きたかった。わたしの感じた気持ちは本当なのか。彼も同じように思っていてくれるのかどうか。
でももう聞けなかった。

わたしは気づいた。わたしの、求めているもの、それは暖炉だ。わたしをあたためてくれるもの。
それが、そこにはない。あったとしても、すでにちがう人のために、ちがう人をあたためるべき設けられている暖炉。

もう、日本に本当に帰らなきゃいけない日がせまっていた。わたしは、前回できなかった観光をしたり、旅行者に有名なアムステルダム名物のカフェに行ったりして、同じようなツーリストの人々と話した。
そして日本に帰った。

ダニーからはその後もメッセージが届いていた。彼はその中でいつも冗談をいったり、小さい話をした。そしていつもわたしがなにをしているか聞いた。
わたしは話すことがなかった。彼と会えないのなら、ネットの友だちになることは望んだことではなかった。
なんどかダニーから誘われて、時間をあわせチャットをしたことがある。彼は、やはり自分のことはあまり話さず、わたしの仕事のことや、生活のこと、なにをしているのかをいつも聞くだけだった。
だんだんとメッセージのやり取りはなくなり、半年後、彼からメールが届いた。
“I don’t know what to say. But I still think of you.” なんていっていいかわからない、でもまだきみのことを考えている。次はいつアムステルダムに来るのか教えてくれ。
わたしは、今のところ行く予定はないよ、と返信した。
それから一年後、メールがきた。仕事で日本に行けるかもしれない。そしたらきみに会えるか。きみの家に泊まれるか。
わたしは会えるがうちには泊まれない、と書いた。彼と出会ってからしばらく経ち、ちがう恋もしていた。そのどれもが長続きせず、短期間で終わっていた。とはいっても、いいよ、とは言えなかった。
さらに一年後、メールがきた。今どうしているのか。また会いたい。そこには I love you, とも書かれていた。
わたしは彼の言葉や気持ちが理解できなかった。こんなに遅くなって今ごろなに?というのが本音だったし、そんなことずいぶん時間が経ったあとで言われても信じられるわけもなかった。
最後にメールがきたのは、今の夫のセバと出会い、結婚しようと約束をしたあとだった。ダニーの質問はいつもだいたい同じ。こんどまたアムステルダムに来るか。会ったらいっぱいきみを抱きしめたい、I love you,
わたしは、わたしもやっと本物の人にめぐり会ってこれから結婚するの。だから、もうそういうこと言わないで、と書いた。それからメールはきていない。    〜完〜
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posted by ナオカ at 03:40| Comment(12) | TrackBack(0) | 恋愛など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月11日

過去と現在の恋

これは、前回の「ビールと、友人 Amberg」の続きです。

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毎日雪が降り、インターネットもなく携帯もない、ドイツの田舎町にいると、世界から切り離されている感じがした。
わたしは日本に帰る日を延ばした。アムステルダムで会ったダニーのこと、一年前に会っていたシュテファンのこと、その夏なんどか寝た男のことなどをごちゃごちゃに思い出していた。

「そういえばさ、シュテファン、どうしたのかな」 クラウスに聞いてみた。
「シュテファンって、あのシュテファン?」クラウスの顔が曇った。
「うん、あのシュテファン」
「今、日本人とオーストラリアに行ってる」
「仕事?旅行で? もう日本にはいないの?」
「しらない。俺、あいつ、嫌い」
「どうして?」
「最悪」
ここで彼は、おもむろにピザをつくるといって引かず、それ以上聞くことはできなかった。

その夜、わたしはクラウスの座る大きなソファの後ろで、大きな音で流れている音楽に隠れ、ひとり泣いた。
一年前の恋が、完全に終わった気がした。

しばらくクラウスの家に泊まっていたわたし。ある夜、ムードたっぷりの音楽をかけ、わたしたちは一度男と女の行事をしてみようと思ったことがある。
途中までやってみて、わたしたちはやめた。なんだか馬鹿みたいに思えたのだ。
ちがう、とわたしは思った。こんなことをしてる場合じゃない。ここで休んでいるわけにはいかない。今、つながっているもの。過去ではなく、今現在のわたしの、目の前にあるもの。それをなんとかしなければ。
わたしはアムステルダムにもう一度行くことに決めた。日本に戻る前に、もう一度、やってみよう。彼に、会えるか会えないかわからないけど。

そのころのわたしは、まだボーダーライン -境界線- をもっていなかったと思う。なにがしていいことで、なにが相手を想うことであるか。ほんとうに好きだったらどうするか。立場、というもの。そういう指針のようなものを、知らなかった。
そして、自分の気持ちに素直でいることに固執するあまり、相手が自分と同じように振舞わないことが理解できなかった。
それが本当にわかるのは、もっとあとに自分が結婚して、逆の立場になったときのことだった。

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posted by ナオカ at 05:50| Comment(7) | TrackBack(0) | 恋愛など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月10日

ビールと、友人 Amberg

これは、前回の「逃げてドイツへ」の続きです。

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ニュンブルグの空港に降りたつと、大きい会社の看板が目に飛び込んできた。
クラウスと、そしてシュテファンが勤めている会社。ここから彼らは日本に駐在にきていた。
外に出てみると、すねたような顔をしてきょろきょろしているクラウスがいた。
彼は、変わっていなくて、でも東京にいるときよりずっとのびやかな笑顔をしている。

ドイツのアウトバーンを車でとばして、アンベルグのクラウスの家に行く。
クラウスは、何年もつき合っていた彼女と別れたと話した。彼女はスペイン人でドイツの大学に留学していた。クラウスが2年日本に滞在していた間、彼女はドイツで遠距離恋愛をしていた。しかしクラウスはドイツに戻ってすぐ、また何ヶ月か後にカナダへの長期赴任が決まった。ふたりは、話し合って別れることに決めた。これ以上遠距離は耐えられないし、彼女はドイツに残ってそのまま就職したいから彼といっしょには行けない。
「まだ彼女のこと好きだけど、こればっかりはどうしようもないよやっぱ」 クラウスは苦笑いした。

クラウスの家、ここは田舎町、店もあまりないようなところ。
休暇中のわたしたちは毎日、朝からビールを飲んだ。
こころを動かされず、気をあまり遣わないですむ友人といっしょにいれば、ほんとに休まりそうな気がした。

「わたしさ、オランダで会った人を好きになっちゃったみたい」
「ん?」 クラウスは言う。
「でもその人結婚してるんだ。もう会えないかもしれない」
クラウスはやれやれ、というようにため息をついた。
「おまえさ、」
彼はそこで言葉を切ったが、顔には“だからだめなんだよ” と書いてあった。
「俺はね、好きな人には迷惑をできるだけかけない。前にパーティーで会ったキラって子、いるだろ?俺、彼女のこと大好き。もう何年もね。でも、そのこと彼女には言わない。今彼氏といっしょに住んでいて幸せそうだから、迷惑かけたくない」
「ねぇ」 わたしは言った。
「あんたが好きって気持ち言わなかったら、どうやって彼女、わかるの?あんたはどうして彼女が彼氏と幸せだってわかるの?もしかしたらあんたのほうが好きかもしれないじゃない」
クラウスはそれには答えず、オランダの話へと戻した。
「たった何十分しか話してなくて、どうしてそいつのこと好きってわかるの?」
わたしは思いだしていた、ダニーと会った日のこと。彼がカルロスにわたしを送ってくれると言ったあと、わたしはすこし心配だった。見ず知らずの人が送ってくれるって。ダニーに小声で聞いた、「ほんとに彼のこと信用できる?」 彼はわたしをちらっと見て微笑んだ。 「うん、俺の友だちだから」
会ってから何十分しか話さなかった。それでも、信用してた、自然と。

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「その彼に、また会ってどうするの?」 クラウスは聞いた。
「え?」
「だから、またそいつと会ったらさ、なにすんだよ」
考えたこともなかった。なにを、する?
彼に会ったらただ抱きしめてしまうかもしれない。それしかできないかもしれない。

でも、このまま日本には帰れない。ここにこころを残したまま、遠い国に帰れない。

わたしは毎日ビールを飲み、買い物に行ったりマックを食べ、たまに来るクラウスの友人と話し、日々多くなり降り積もってゆく静かな雪をみてもの思いにふけった。ときは年末に近づいていった。

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2005年12月09日

逃げてドイツへ

これは、前回の「ダニーとの出会い Amsterdam」の続きです。

朝めざめると、アムステルダムは雪が降っていた。
朝はやく、ドイツのクラウスからの電話で起こされる。
飛行機の時間調べたよ、って。
クラウスからはロンドン以来、何度かメールがきていた。「アムステルダムまできてるならドイツまでおいでよ」
クラウスは言いだしたらきかないやつ。ドイツに足をふみいれる勇気がなくて、今回はわざと予定に入れていなかったのに。
まだ、ほんの少し迷いはあったが、やはりドイツに入ることにする。
アムステルダムは2日間だけ。それで十分だ。

空港に行き、なんとか飛行機のチケットをとって、搭乗。クラウスに電話する。

飛行機の中で考えていた。あれほどまでに行ってみたかったアムステルダム。どんなすごいものやできごとが待ちうけているのかと期待していた。
それなのに、わたしのしたことといったら、
いっしょうけんめい、自分のノートパソコンをインターネットにつなげようとしたこと。
現地のプロバイダーにつながらなくて、日本のアクセスポイントまで国際電話をしてネットにつなげた。
きっとダニーからメッセージがきているはずだったから。

“Hello Danny from Holland. I like you!!”
わたしはすぐに返事を書いた。
“How are you?I want to meet you up!”あなたに会いたいよ!
それに対する返事はなく、なんども短いメッセージと、サンタクロースの絵が描かれたオランダのWebページが送られてきた。

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アムステルダム2日目、中心からさほど遠くない、“Red right district” という、日本で言えば新宿歌舞伎町のようなところを歩いてみた。
そこは有名な場所で、行ってみたかったところのひとつ。でも女ひとりで歩くのは危ないからということで、ダニーの同僚カルロスがいっしょに来てくれた。
カルロスは言った。どうしてきみはそんなに悲しい顔をしているの?−わからないの。ただ、ずっとひとつのことが頭から離れないの。
彼は言った。きみは恋に落ちてしまったんだね。
どうして彼に電話しない?カルロスは聞いた。
わたしはダニーの電話番号もしらなかった。
彼はポケットからペンを取りだして、なにか紙に書いた。
はい、電話してみなよ。そう言って、ダニーの電話番号をくれた。

わたしは自分でどうしてしまったのかと思った。人間として?男として?どうしてこんなに会いたいの?自分はなにを欲している?
傷つくことに臆病になっていたわたしにできるのはただ逃げることだけだった。
そんなとき、クラウスからの電話で、ドイツに行くことを決めたのだ。
ただただ、あたたかいものに触れたかった。

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posted by ナオカ at 00:57| Comment(0) | TrackBack(1) | 恋愛など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月08日

ダニーとの出会い Amsterdam

これは、前回の「ドイツからの一通のメール」の続きです。


ロンドンでは、街を歩きまわり、蚤の市をのぞいたりして3日間が終わった。

アムステルダムにむかう飛行機の窓から空をながめていると、曇っていた空がだんだん晴れていく。
今までずっと行ってみたいと思っていたオランダ。性に対しても、ドラッグに対しても規制のゆるいオランダは、とても自由なイメージだ。
オランダに近づくにつれて晴れてゆく空を見ていると、まだ見ぬオランダが、期待を裏切らずきっといいところだと確信した。

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空港に着いたら、まずは今日の宿を確保しなければならない。ツーリスト・インフォメーションに行くと、そこの女性は小さいことですぐに笑う。なるべく安いホテルを、でも中心に近いところね、という無理な要望に、時間をかけながらもいいところを見つけてくれた。
アムステルダムは欧州最大のKLMオランダ航空の乗り継ぎ地。空港のなかはたくさんの店とレストランと、それにバーもある。
空港内にすてきなバーがあるなんて信じられない。こんなところははじめてだ。
スーツケースを押し、広い空港を、電車の駅に向かって歩いていくと、オープンになっているバーの前に “グロールシュ”のマークが見えた。
グロールシュはオランダのビール、東京でもよく飲んでいたわたしの最も好きな銘柄だ。グロールシュが生が飲めるなんて!わたしはうれしくなり、オランダに着いたことを祝うべくバーに寄ることにした。
バーの中は、まだ明るい夕方だというのに人でいっぱい。空いている席がなかなかなさそう。見まわしていると、ひとつ、みえた。
その席は、小さいカウンターになっていて、背の高いスツールがおいてある。空いている真向かいにはすでに誰かが座っているよう。でも選択の余地はない。誰にもとられないように、早足でまっすぐ歩く。スーツケースをたてかけ、“ここ座っていいですか?”と、先にいた客に言おうとした。「もちろん」 すぐに返事がきた。
はっと見ると、切れ長に青い目の男。短髪で色がとても白く、今まで見てきた西欧人と感じがちがう。つるっとした顔のなかにも芯の強さがあるような、細いからだの線のなかに男っぽいたくましさが見える。わたしはグロールシュの生を片手に一瞬かたまった。
「旅行?」 男は聞いた。
「うん」
「オランダははじめて?」
「はじめて!」
男は、アムステルダムに着いて浮き浮きしているわたしにつられたのか、はじめはクールな顔をしていたのに、打ち解けてきたらいたずらっぽく笑う。
KLM、と書かれたブルゾンを着ている。聞いてみると、KLMカーゴ(貨物)で働いている人だった。
オランダに着いて、大好きなビールを飲んで、これからの数日にわくわくしていたところに、フレンドリーなオランダ人と立てつづけに話す。ほんとにこの国、いいかもしれない!
男はダニーといった。何歳か、という話をしていたら、「30。先月30になっちゃったんだよなぁ」と残念そうにいう。
「きみは?」
「27歳」
ダニーはよしよし、というようにうなづいた。
「俺ね、思うんだけど、女の人は30過ぎてからがかっこいいと思うよ」
「ほんと?」
「うん。なんかね、内側から出てくるんだ、生き方みたいなものがさ。あ、色気かもしれない」
そういってダニーはくっくと笑う。
わたしは彼の左手の薬指の指輪を見ながら言った。
「結婚してるんだね。いいねぇ」
「いいのかなぁ。子供もいるんだぜ。今2才」
彼はそう言ってまたさきほどと同じような冴えない顔をした。なんだかうれしくないみたいだ。
「いいことだよ。だって結婚したってことはさ、本当の相手にめぐりあえたってことじゃない」
「でもさぁ・・・」ダニーは頭の中でなにか考えているようだった。
「英語ではベター・ハーフって言うじゃない。“自分のよりよい半分”ってすごくいい言葉だよね」
「うーん」ダニーの顔は浮かない。
「あのさ、LoveとLikeってあるじゃない。Loveはひとつかもしれないけど、Likeはわたし、いっぱいもってるよ」
そう言うと、
「そっか。・・・そうか!」それまで曇っていたダニーの目が突然かがやいた。
「そうだよ!」
彼は、Likeという言葉が気に入ったようだった。

ふたりで話していると、ダニーの同僚という男がやってきた。アラブ系で、名をカルロスといった。
3人でビールを飲み、ダニーはカルロスになにかオランダ語で話していた。
「こいつが、きみをホテルまで連れてってくれるから」
「いいよいいよ、そんな」
「荷物も重いしさ、こいつが行けばすぐに場所みつかるから」
ダニーの好意に感謝した。
彼は、ICQという、今でいえばMSNのメッセンジャーのようなチャットソフトを使っていると言った。わたしもそのころICQを使っていたので、お互いにIDを交換した。

30分ほど話したころだろうか。三人で席をたつ。店を出て、電車のホームに降りるエスカレーターのところまでくると、
「ICQですぐメッセージ送っておくから!」ダニーはそう言い、
突然わたしの首を手でぐいっと引きよせぎゅううっとわたしを抱きしめた。そして耳元でこうささやいた。
「I like you!You’re a special woman. It’s so nice to meet you!!」
びっくりした。久しぶりに、人と本当につながる感覚。こんなに素直にまっすぐとこころに響く言葉ってあまりない。それだけじゃない、ぎゅっとされてI like you!と言われたら、こころまでぎゅうっとされた気がした。

空港からホテルに行く電車のなかで、横にいるカルロスがなにか話しているがまったく頭に入ってこない。今別れた、はじめて出会ったオランダ人、ダニーのことが頭をめぐっていた。

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2005年12月06日

ドイツからの一通のメール

これは、前回の「トビーとの再会 London」の続きです。


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トビーとパブで飲んでいるとき、あ、と思い出した。
「そういえば、前につきあってた日本人のガールフレンド、どうした?」
トビーは、間をおいてわたしの顔をちらっと見た。
「ミホ?まだ、いるよ、ロンドンに」
トビーの顔に蔭りが見えたので、わたしは彼の次のことばを待った。
「でもね、別れたというか、別れようと思ってるんだ、彼女とは」
びっくりした。2年前に出会ったときトビーは彼女の話をよくしていて、俺の彼女日本人なんだよ、とかわいい彼女の写真を見せつけられ、大いに自慢されたのだ。
「彼女さ、」トビーは言葉を続けた。
「ロンドンで学校卒業したら日本に帰るって言ってたのに、日本に帰らないし、仕事もしてないんだよ、今」
わたしは思った。だから?
「仕事みつかんないのになんでロンドンにいるの?って聞いたらさ、俺がいるからここにいるっていうんだ」
うんうん、とわたしは思った。うんうん。
「俺、そういうのやなんだよな。彼女に、“俺”しかないって」
わたしはたまげた。ええ、それってすごい幸せなことともとれるんじゃないの?この色男、と口から出かけたが、トビーの沈んだ顔を見てひっこめた。
トビーは深くため息をつくと、口をつぐんだ。
女として、なにか言ってやりたい気分だったが、彼には彼の状況があり考えがあるのだろう。以前だったら、自分とちがう意見を聞いたら即座に言いかえしていたわたしだが、目には見えない相手の状況をも汲んで、黙っているのも大人ではないか?

トビーの家に戻り、フラットに住むルームメイトを紹介してもらい、疲れていたわたしはリビングで、飾られたクリスマスの白く光るライトを見ながら眠りについた。

London02.jpg


翌朝、トビーの家の住人はみな朝早くでかけた。わたしはトビーに家の鍵をもらう。
ロンドンで、ただ旅行にきたのにふつうの人が住む家にいる。誰もいない大きな家にひとりでいると、まるでここに住んでいるみたい。わたしはWOW!とひとりで叫び、階段を走りあがってロンドンにいる喜びをかみしめた。
まずは、インターネットやりたかったら使っていいよと言い残してくれたトビーの部屋に行き、コンピュータを起ちあげる。
ひとり旅に孤独はつきもの。そんなとき、メールは欠かせない。街を歩いていて孤独におそわれたとき、誰かからの便りが届いているととてもうれしい。
その日もそんな気分でメールをチェックすると、すごい偶然!クロウスからメールがきていた。

一ヶ月前に日本からドイツに戻ることになった彼。一年前はいつもつるんでカラオケに行ったり、また彼の家に遊びに行ってゲームをやったり映画を観たりしていた。この彼が、「リーダー役ドイツ人」、わたしにさまざまな助言をくれた人だ。
しかしその後、しばらく仲のよかったドイツ人とも、ドイツと名のつくものはすべて関係を切っていたわたし、クロウスから「俺、ドイツに帰ることになったよ。お別れパーティーやるから絶対来て」と連絡が入ったときには行かないわけにはいかなかった。彼が帰ってしまうということもショックだったが、最後にひとめ会いたくなった。
わたしは一年間足を踏み入れなかった六本木へ行った。クロウスの顔を見ると、以前みなで楽しく遊んでいた記憶がよみがえり、彼が帰ってしまうことに急にさみしさを覚えた。
「ほんとに出会えてよかった。ありがとう」とハグしてまじめに言ったものだ。
さて、彼のメールの内容をみると、ドイツに戻って一ヶ月、やっと生活が落ち着いてきたらしい。連絡先として、住所や電話番号などが書かれていた。
わたしはうれしくなって返信した。クロウス、知ってる?わたし今ロンドンにいるんだよ。お休みで来たの。3日ここにいたらアムステルダムに行くんだ。
Merry Christmas, と書いた。日本にいるより、今ロンドンにいるわたしは、時差的にも一時間のドイツにいる友をもっと近くに感じた。

続き「ダニーとの出会い Amsterdam」へ
posted by ナオカ at 22:47| Comment(3) | TrackBack(0) | 恋愛など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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