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再びアムステルダム空港を訪れたのは年末のことだった。
空港に着いて、ダニーと出会ったバーをのぞく。また、彼がいるかもしれないという期待をすこし抱いた。彼はいなかった。
以前、ダニーの友人が書いてくれた彼の電話番号をわたしは大事にとっていた。
またホテルを予約し、ホテルに着いたらすぐにインターネットに接続する。
ダニーからたくさんの小さいメッセージが入っていた。
電話番号をとりだし、電話する。もう待ちきれない。
電話した。
出た。
子供の声がした。
ダニーはとてもびっくりしたみたい。How are you?と英語で聞いた。家にいたんだ。奥さんが近くにいるんだ。わたしは急いで切った。
そのあとは落ちこんだ。どうして電話したんだろう?オランダ語ではなく彼が英語を話したことで、奥さんにおかしく思われてしまったかもしれない。
その夜、ダニーからメッセージが入った。
「まずかった。誰だかしつこく聞かれた。電話はまずいから、俺の電話番号は捨てて」
ただ会いたいと言いたかった。
ただ、彼の気持ちを聞きたかった。わたしの感じた気持ちは本当なのか。彼も同じように思っていてくれるのかどうか。
でももう聞けなかった。
わたしは気づいた。わたしの、求めているもの、それは暖炉だ。わたしをあたためてくれるもの。
それが、そこにはない。あったとしても、すでにちがう人のために、ちがう人をあたためるべき設けられている暖炉。
もう、日本に本当に帰らなきゃいけない日がせまっていた。わたしは、前回できなかった観光をしたり、旅行者に有名なアムステルダム名物のカフェに行ったりして、同じようなツーリストの人々と話した。
そして日本に帰った。
ダニーからはその後もメッセージが届いていた。彼はその中でいつも冗談をいったり、小さい話をした。そしていつもわたしがなにをしているか聞いた。
わたしは話すことがなかった。彼と会えないのなら、ネットの友だちになることは望んだことではなかった。
なんどかダニーから誘われて、時間をあわせチャットをしたことがある。彼は、やはり自分のことはあまり話さず、わたしの仕事のことや、生活のこと、なにをしているのかをいつも聞くだけだった。
だんだんとメッセージのやり取りはなくなり、半年後、彼からメールが届いた。
“I don’t know what to say. But I still think of you.” なんていっていいかわからない、でもまだきみのことを考えている。次はいつアムステルダムに来るのか教えてくれ。
わたしは、今のところ行く予定はないよ、と返信した。
それから一年後、メールがきた。仕事で日本に行けるかもしれない。そしたらきみに会えるか。きみの家に泊まれるか。
わたしは会えるがうちには泊まれない、と書いた。彼と出会ってからしばらく経ち、ちがう恋もしていた。そのどれもが長続きせず、短期間で終わっていた。とはいっても、いいよ、とは言えなかった。
さらに一年後、メールがきた。今どうしているのか。また会いたい。そこには I love you, とも書かれていた。
わたしは彼の言葉や気持ちが理解できなかった。こんなに遅くなって今ごろなに?というのが本音だったし、そんなことずいぶん時間が経ったあとで言われても信じられるわけもなかった。
最後にメールがきたのは、今の夫のセバと出会い、結婚しようと約束をしたあとだった。ダニーの質問はいつもだいたい同じ。こんどまたアムステルダムに来るか。会ったらいっぱいきみを抱きしめたい、I love you,
わたしは、わたしもやっと本物の人にめぐり会ってこれから結婚するの。だから、もうそういうこと言わないで、と書いた。それからメールはきていない。 〜完〜
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